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「 悪ガキども嫁を見に行く、あるいは小十郎のFlying 」
「さて蔦とも話せたし、見つからないように帰るぞ。……時宗丸?」
政宗の声に応えがない。
「時宗丸様?」
蔦もあたりに目を向ける。
「お城へ先に向かわれたのでしょうか」
「いやアイツは勝手に動く奴じゃねえ」
「……」
蔦が思案顔になる。それから、茶屋の店先に立てかけてある背丈よりやや長めの棒に目をやった。そして店の中へと声をかける。
「小父さん、これもらっていいかしら」
「は?まあただの棒っきれだから、構わんが」
「ありがとう」
蔦は棒を握った。握りを確かめるような一瞬の動きに、政宗もその傍らにあった短い棒を取り上げる。
「これももらうぞ」
と政宗が言えば、蔦がそれを制する。
「若君はお城へ」
そういう言う蔦に政宗は首を振る。
「あいつを連れてきたのは俺だ。そういうわけにはいかねぇ。……城下は危険だと言ってたが、人攫いでもでたのか?」
「……」
「bingo、か」
「付いていらっしゃるなら、離れないでくださいまし」
「ああ」
蔦は言って、一本の路地を選んだ。
時宗丸は口元を押さえられ、屈強で汗臭い男たちに運ばれていた。
――ありゃ、どうしよう。
混乱するわけでもなくどこかのんびりと考えてしまう。茶屋の店先にいたところひょいと後ろから抱え込まれてしまってはどうしようもない。
――真昼間から人攫いが出るなんて、治安悪いなぁ。
数は三人。隙を見れば逃げれるだろう。時宗丸がそう算段した時だった。
「お待ちなさい!」
路地に女の声が響いた。ぴたり、と男たちが止まる。
「その子を放しなさい」
男が振り返ったので時宗丸も当然そちらを向くことになった。蔦が棒きれを薙刀のように構え、政宗がそれより短い棒を中段に構えている。
「……で、次どうすんだ」
政宗が小声で聞く。さすがに女一人と元服したとはいえ十一の自分で男どもを倒すのは無理というものだ。
「隙を作れば、時宗丸様は逃げられますね?」
「たぶん、な。あれでも武人の子だからな」
「ではすぐに三十六計」
「逃げるに如かず。all right」
二人は同時に地を蹴った。
戦力は分散させず、二人同時に時宗丸を抱える男を狙った。男がギョッと身をよじる。同時に、時宗丸が自分の口をふさいでいた手にかみつく。男が悲鳴を上げると、蔦は男の頭を、政宗は胴を打った。反射的に男は三つの痛みに時宗丸を手放した。時宗丸は猫のようにしなやかに地面に着地する。
「走るぞ!」
政宗の一言に、三人は一斉に身をひるがえした。
「蔦、先行け!」
政宗は振り返りつつ走る。だが蔦は殿を務めるかのように前に出ない。政宗はそれ以上言わず、走ることに集中する。いつの間にか時宗丸が並んでいて、やっぱこいつの運動能力半端ねぇ、と思った時だった。
後ろで、人の倒れる音がした。
「!」
「蔦!」
振り返れば、蔦が倒れ伏している。見れば、蔦の右の足首に投げ鎖が絡みついているではないか。
「お早く!」
顔をあげた蔦が言うのと、男たちが蔦を取り囲むのが同時だった。男の一人がぐっと蔦の髪をつかんだ。
「蔦!」
政宗は棒を構え、時宗丸が徒手のまま拳をつくって顔の前に構える。
「舐めた真似してくれやがって、お稽古ごとで敵うと思ったのか、あ?」
蔦が身をよじると、その顔を覗き込んだ別の男が言う。
「へえ、結構上玉じゃねえか。ガキより高く売れるかもしれないぜ」
「その前にお詫びをしてもらうっつーのもいいな」
下卑た笑いをする男たちに政宗の肌が泡立った。政宗がついぞ聞いたことのない下品な声にだ。
「蔦を放せ。下衆どもが」
「おーお坊ちゃんがお怒りだぜ」
男たちは下卑た笑いを響かせた。パリパリと政宗と時宗丸の周りに、比喩でなく怒りの雷が溜まっていることに男たちは気づかない。無理もない。武人以外にはない人知を超えた能力だ。まだこの不可思議な力を二人は御しきれていないが、今は使うしかない。バリバリと二人の周囲で光がはじけ始める。
そして二人が何らかの技を出そうと息を吸い込んだ時だった。
「唸れ!」
低い押さえた男の声が路地に響く。
「鳴神!」
ドン、と雷鳴が響いてあたりが真っ白になる。政宗と時宗丸は思わず目をつぶった。自分たちが呼んだ稲妻ではない。次に目を開けると、男の一人が体から煙をあげてゆっくりと崩れ落ちるところだった。
「政宗様!時宗丸!」
「小十郎!」
鳴神と唱えて雷神を呼んだのは片倉小十郎だった。左手には真剣を下げている。
「ご無事ですか!」
「蔦が!」
知っている顔が現れて、時宗丸は情けない声をあげながら前方を指さした。
「?!」
小十郎が見れば、残された二人が蔦を抱えたままじりじりと後退している。しかも蔦の喉元には、刃物。
「近寄るんじゃねぇ!女がどうなってもいいのか!」
小十郎が大技を放ったのが逆効果になったらしい。男たちは命の危機を感じて蔦を盾に取ったのだ。見る間に小十郎の顔つきが変わっていく。
「……蔦を解放しろ」
少年二人とは比較にならない帯電が小十郎の周りを渦巻き始める。
だが男たちは聞こえなかったのか、後退を続ける。その動きで蔦の首筋に刃が当たった。一筋赤いものが流れ落ちる。それを見て、小十郎の顔つきが鬼になった。
「俺の女房を放せと言ったんだ……!」
言い終わるのと小十郎が地を蹴るのは同時だった。一瞬で間を詰めると峰で男のガラ空きの胴を打ちすえる。
打ちすえられた男が空気とともに何かを吐きだし、崩れ落ちる。そのわずかの間に小十郎は解放され体勢を崩しかけた蔦を右腕に抱えて、飛び退く。
「小十郎、右だ!」
政宗が警告を発するのと小十郎が蔦を庇うように半身を引くのは同時だった。そしてその反動を使い、小十郎は「おらぁ!」という声とともに左足を繰り出した。
足はまっすぐもう一人の男の鳩尾に突き刺さる。男は路地の壁まで吹き飛んだ。吹き飛んで、ぐったりと動かなくなる。
小十郎が刀を地面に突き立てた。撫でつけられた髪が一筋くずれて、額に落ちかかる。刀を引きずったまま、蔦を抱えたまま、小十郎は手近に転がる男に一瞥をくれた。小十郎の周囲が再び帯電しはじめる。
「小十郎さま!あとは父にお任せください!」
場に似合わぬ女の声に、小十郎がふっと目を蔦に向けた。
見れば、右腕の中で蔦が必死の形相で小十郎を見上げていた。
「……、矢内殿は検断職でしたか……」
「ええ、ここも父の担当です」
蔦はそう言って小十郎にぎゅっと抱きついた。すると、彼にとりついた鬼が消えていく。
「怪我を」
我に返り、蔦を地面に下ろした小十郎は手ぬぐいを取り出して首筋にあてた。その手に、蔦の手が重なる。
「かすり傷です」
蔦は小十郎を落ち着かせようとしたのか、そう言って何事もなさそうに笑いかけた。その笑みに小十郎は無意識に蔦を抱き寄る。そしてほっとため息をつく。
「……、政宗様と、時宗丸様が」
蔦が腕の中で小声で言った。小十郎ははっとしたが、腕の中に蔦を閉じ込めたままそちらを見やった。呆然とする政宗と時宗丸に、小十郎は低い声を出した。
「納得のいく説明を」
投げ鎖に右足を痛めつけられた蔦を背負って小十郎は政宗と時宗丸と並んで歩いた。城を抜け出したことを正直に白状した二人に小十郎は無言だ。いたたまれなくなったのか、蔦が口を開いた。
「私が茶屋にお連れしなければ……」
「それを言うなら、そもそも城を抜け出さなければよかったのです」
小十郎の言葉にまた沈黙が訪れる。一行は矢内邸に向かっていた。
「……そもそも私が、そのままお城か父のところに通報すべきでした。軽率でした」
「でも蔦が追わなきゃ時宗丸は探せなくなってた」
政宗が言えば、時宗丸もうなづく。小十郎は無言だった。やがて矢内邸にたどり着く。
未来の婿殿がいらした、と嬉しげに出てきた女中は、その婿殿に背負われている蔦の姿を見てさすがにぎょっとした。足を痛めた、と言えば慌てて部屋やら薬やらを様々用意し始める。
「蔦、足大丈夫?」
一同が部屋に通されたのち、時宗丸が問えば安心させるように蔦は笑い、頷く。
それから、あ、と彼女が言った。
「今日のお使い、茶屋にすべて置いてきてしまいました。どうしましょう?」
そのやや抜けた言葉に時宗丸と政宗が一瞬あと吹きだした。
見れば小十郎もいくらか雰囲気を柔らかくしている。
そこへ「蔦」と誰かの声が響いた。
「父上」ここは客間の一つらしい。
蔦の応えに、重定が戸を開けた。
「おお……これは片倉殿に、若君、時宗丸様」
彼が何か言う前に少年二人が姿勢を正して深く深く頭を下げた。重定が驚いて慌てて座る。
「蔦が怪我したのは俺たちのせいだ」
政宗が素直に言い、事情を説明すれば、重定はため息をついた。
「蔦、お前がついていながら」
「申し訳ありません」
「まあ、いい。今後はしないように。お前ひとりの身ではなくなる」
重定は小十郎と蔦を見比べながらそう言った後、「蔦のせいじゃない」と口々に言う政宗と時宗丸に目を向けた。
「別室にお茶を用意させております。若君と時宗さまはそちらに」
控えていた女中が戸を引いたので、政宗と時宗丸はその言葉に素直に従った。戸が閉められると重定が小十郎に深々と頭を下げた。
「娘がついていながら。申し訳ございません」
「いえ、蔦殿が追ってくれなければ、時宗丸様の行方は知れなかったかもしれません」
「それでも検断職の娘であれば危険は承知。軽率に違いはありません」
小十郎は何も言えなくなった。
「茶を用意しておりますゆえ、片倉殿もこちらに」
「……蔦殿と少し話を」
「わかりました」
重定はそこで立ちあがって部屋を辞した。蔦と小十郎の間に沈黙が落ちる。小十郎がその場に伏した。蔦が慌てる。今日は人が頭を下げてばかりだ。
「顔をおあげください」
「感謝すればいいのか、謝罪すればいいのか」
伏したまま言う小十郎の手に、そっと蔦が手を重ねる。
「助けていただきました」
「あれはその……、見苦しいものを」
「確かに一寸びっくりしましたが」
くすり、と蔦が自嘲するように笑った。小十郎が顔をあげる。すると、つ、と蔦の頬を涙が伝った。
「お、おかしですね。足はそんなに痛くないのですが」
見れば涙をぬぐう指先が震えている。恐怖がぶり返してきたのだ、と小十郎は気づいて思わず蔦を抱き寄せた。
「怖かった、と言ってください。気丈にふるまわなくていい。そっちの方が心配だ」
言うと、蔦はしがみついてきた。声こそ上げないが、震えている。それで十分に伝わる。小十郎は腕に力を込めた。
しばらくそうしているうちに、蔦の震えが落ち着いた。胸を優しく押し返されて、小十郎は名残惜しげに蔦を解放した。涙の筋に気付いて、思わず親指で目元をぬぐってやる。
「無事でよかった」
こくりと頷いて、ふと蔦の瞳が泳いだ。
「あの、そういえば」
「うん?」
「さっき、女房と」
「……、あ」
先ほど自分が言ったことを思い出して、小十郎は青ざめた。
「あ、あれは……」
気持ちが先走ってしまい、と、言いかけたところで蔦が俯く。
「……がいいです」
「は……?」
見れば、泣いたのとは違う訳で蔦の顔が赤い。
「まだ、嫁とか妻がいいです。女房だとなんだか、五人は子ども育ててそうです」
「え……はい」
言われて小十郎まで赤くなる。
――祝言もまだなのに俺は一体……。
頭を抱えたくなる。が、蔦がそう言ってくれたのが素直にうれしい。思わず彼女の頬を撫でる。蔦は擽ったそうにした。その手に、彼女が手を重ねてくる。小さな手だが、暖かい。
それからふと、彼女は真面目な顔になった。
「若君に城下の嫌なところを見せてしまいました」
蔦の瞳が暗くなる。小十郎は目だけで先を促した。
「若君には、下々の者は懸命に、けれど楽しく生きているのだと思っていただきたかった。それが、よりによって人攫いなど」
その言葉に、小十郎はもう片方の手も蔦の頬に添えて優しく言う。
「それでいいのです。世とは清濁併せ持つもの。どちらかにしか目を向けなければそれは愚かと言うもの。
むしろ政宗様の気性からいって、今回のことは嫡男、いずれは民を治める者としての自覚を強めるかもしれません。だから今回のことは、気に病む事ではありません」
その言葉に蔦はまっすぐ小十郎を見返してくる。
「そうですね。……若君の一番そばにいらっしゃる小十郎さまがそうおっしゃるなら間違いないですね」
蔦の言葉に、小十郎が眉をあげた。
「小十郎さま?」
「……今、名を」
「……あ。失礼いたしました」
「そういえば、路地でも」
「あの、片倉様」
「いや、そのままで……。――蔦、と呼んでも?」
「はい、小十郎さま」
呼ばれて呼んで、照れたのか蔦は小十郎の額にこつんと己の額を合わせた。小十郎はまた赤くなった。
蔦を休ませるために部屋を辞して、もうひとつの客間に通されれば政宗と時宗丸が正座し背筋を伸ばして重定の前に座っていた。出された菓子はなぜか手付かずだ。二人とも食べざかりだから、茶屋の団子でお腹いっぱいのはずがない。よく見れば、ふたりはシュンとしているようにも見えた。
「矢内殿?」
「おお、片倉殿」
重定は政宗の隣に座るよう小十郎を促した。
「今回のことは、私が沙汰をすることになるでしょう」
そう言って重定は天井を見上げた。
「……片倉殿と若君、時宗丸様が蔦を訪ねていらっしゃって、はぐれた時宗丸様が賊に攫われ、片倉殿が対処した。そういうことにいたしましょう」
年齢はばらばらだが、等しく重定よりずいぶん年下の者たちが首をかしげる。
「そうしませんと、若君と時宗丸様にも不利でしょう」
重定は顔に苦い笑みを浮かべる。真っ先にはっとしたのは政宗だ。
「それに片倉殿が蔦のために賊をあそこまで痛めつけた、といより実元様のご子息のために、というほうが通りやすい」
「あ――」
重定の言いたいことは、小十郎が異常なまでに賊を痛めつけたためそれなりの罪に問われる可能性があるということであった。思い至って、小十郎は身を固くする。
「まあ、賊の方が罪が重いですからあまり気にすることでもないのかもしれませんが」
そこで重定はちらりと政宗を見た。政宗はしっかりとその視線を受け止めた。伊達家の後継者はしっかりと政宗と定まっているわけではない。敵対勢力があるなら、綻びはないほうがいい。今回のことは、その“敵”に政宗排除のなんらかの糸口を与えてしまう可能性があった。重定はそれが言いたいのだ。政宗は居住まいを正した。そして、深々と頭を下げる。
「ご配慮、感謝いたします」
改まった政宗の声に小十郎も続く。時宗丸も察して頭を下げた。
「なに――若君に恩を売る好機とみただけです」
重定は笑う。それ以上重定はその話をせず、菓子と茶を勧めた。三人はそれを平らげてから、矢内重定の家を後にした。
「父上が見どころがある、というわけだ」
屋敷を出てしばらく歩くと、政宗がぽつりと言った。
「……そうか、あの賊は検断職の沙汰にかかるのか」
「そうなります」
「そういう務めもあるんだな」
「……」
「そしてそれが必要とされる理由がある」
「……はい」
政宗はそこで押し黙った。何かを考えている、と小十郎は察する。
「俺はもっと学んで、色々見なけりゃならないな」
「はい」
「……今日は『南蛮語よりも』、とか言わないんだな」
「この小十郎、さすがにそこまで無粋ではありません」
憮然として言えば、政宗は笑った。その政宗が、ふと言う。
「そういえばお前、なんであそこにいたんだ?」
「姉上に言われまして」
「喜多が?」
「お茶の時間なのに、いらっしゃらないから探して来いと」
「……じゃあすでにバレてんだな」
「当たり前です」
「だよなぁ」
はーっと政宗はため息をついた。
「あーあ、今日は説教日和だな。重定のおっさんにも説教されたから」
「矢内殿が?」
「ああ、あのおっさん伊達の若君に説教しやがった」
だが言葉の内容とは異なり、政宗は楽しげに笑う。
「少し蔦と似てるな。俺が、時宗丸が、誰かなんて気にしちゃいねぇ。自分のガキみたいに叱ってくれた」
小十郎は「くれた」という表現に耳を奪われた。政宗の顔は怒られたというのに晴れ晴れとしている。
「でも今日は仕方ねぇ。そんだけのことはしたしな」
覚悟は決めたぞ、と政宗が言うので小十郎の口元が緩んだ。
そんなやり取りの中、黙っていた時宗丸が「あれ?」と言った。
「でも城下に降りてきたのはわかるとして、なんであの路地がわかったのさ」
問われて小十郎は答えた。
「雷神の導きにて。稲妻を帯びたでしょう。お二人もそろそろアレの修行に入った方がよさそうですな」
「げ、あれ、キツイって聞いてんだけど」
時宗丸が慌てる。小十郎はニヤリとした。
「確かに。だが、使えるようになれば一騎等千。悪いものではない。鳴神を見たろう?」
「まあ確かに……便利だけどさ……」
「あの鳴神も続けてもう一撃放てないかと試しているところだ」
「えっ」
小十郎の言葉に政宗と時宗丸はさすがにぎょっとした。小十郎は笑う。
その後また黙って歩くと、しばらくして時宗丸が遅れだした。
「おい、時宗丸」
政宗が言うと、幼児帰りしたかのように時宗丸が言った。
「小十郎、おぶって。オレ攫われたし、色んな意味でピリピリしたし、疲れた」
「Ah? お前それでも武士の子かよ」
「武士の子だって疲れるよ。蔦よりはまだ軽いと思うし」
手を突き出されてそう言われては、小十郎も仕方ない。屈めば、時宗丸はおぶさってきた。背負いなおして立ちあがる小十郎の隣に政宗が並ぶ。
「なんか懐かしいな、この感じ」
「……寺を思い出しますかな」
「かもな」
またしばらく歩いて、城の門が見えた頃だった。
「あ」と時宗丸が声をあげた。
「どうした?」
二人に問われて、時宗丸はにんまりする。
「小十郎、蔦の胸って柔らかかったか?!」
ピタ、と小十郎が立ち止まった。政宗まで驚いて立ち止まる。
「何を言って」
「Ah-ha! そうだ、男のromanじゃねぇか!横抱きにすりゃ株も上がるのにと思ったが、そういうことか!」
無邪気な二人は、小十郎が帯電し始めていることに気づかずはしゃいだ。
――その後、本物の雷が落ちたとか落ちないとか。説教が一刻分増えたとか増えないとか。真相は本人たちしか知らない。
(了)
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